沖田総司 中村半次郎 真剣勝負

その男が立ち塞がったのは、祇園からの帰り道だった。立っただけで、異様な気配が肌を打った。
沖田が歳三を庇うような格好で、前で出た。男は動かないが、放つ気配はやはり沖田を圧倒するほどだった。
沖田が全身に気を漲らせはじめた。気と気がぶつかり合う。
男が遣うのは、明らかに居合だった。沖田がひと太刀受ける間に、自分が斬り倒せる、と歳三は思った。抜刀していれば、沖田の突きが勝るとも思えたが、抜き打ちの勝負となれば、相手に分がありそうだった。しかし、本当にそうなのか。沖田の妖しさを増した剣は、思いもかけない動きをすることがある。
男が、息を吐いた。それで、男の放つ気はきれいに消えた。沖田の気も、少しずつ収束している。
「新撰組、土方さあでごわすな?」
薩摩言葉だった。ただ、本当の薩摩弁は、もっとわかりにくい。この男なりに、わかりやすく喋ろうとしているのだろう。
「土方だ」
「こん、お若い方は?」
「沖田総司」
「うおほっ」
男が奇妙な声をあげ、大きく頷いた。
「おいどん、薩摩の中村半次郎ごわす」
名は聞いたことがあった。薩摩で、一、二の腕だという。居合のほか、示現流の手練れだという話だった。
「見て欲しか」
男がいきなり抜刀した。なんの殺気もなく、土方も沖田も微動だにしなかった。
「兼定か」
中村が宙に翳すようにした刀を見て、歳三は言った。
「さよう」
中村は、放りこむような仕草で、刀を鞘に収めた。歳三も、刀を抜いた。中村が、顔を近づけてくる。
「兼定ごわすな」
「さよう」
歳三は、ゆっくりと鞘に収めた。中村が、じっと歳三に眼を注いできた。
「戦場でお会いもそう」
中村が、踵を返して駆け去っていく。
「驚きました。副長を斬る気があったわけではなさそうですが。それにしても、いい腕をしています。いるのですね、あんな男も」
「戦場で会おう、と言い捨てて去ったな」
「帰りましょう、副長。せっかく飲んだ酒が、冷めてしまいました」
歳三は、沖田と並んで歩きはじめた。

?黒龍の柩(上)第二章「隊規」 北方謙三 著より


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半刻ほど待った時だった。
人が駆ける気配があった。沖田は、塀から背を離し、駆けてくる影の前に立った。二人。不意に、沖田を強い気配が打った。
桂ならば、薩摩藩邸に入る前に、斬る。そう決めていた。藩邸への入口は、沖田の背後である。道を塞ぐというかたちで、沖田は立っていた。
強い気を放っているのは、前にいる男だった。見覚えがある。この気にも一度接した。
薩摩の中村半次郎。土方と同じ和泉守兼定を差料にしている男だ。そして、背後にもうひとり。見憶えはなかった。聞かされていた、桂小五郎の特徴とは、まるで違っている。闇の中でもそれはわかった。
「なんかっ」
中村が声を出した瞬間に、沖田は気を発した。中村が、飛び退る。
「おう、襲撃か。誰ぜよ」
土佐の訛がある、と沖田は思った。それ以上、見定める余裕はなかった。中村の影が、嘘のように近づいてきた。次の瞬間、沖田は全身で横に跳んだ。腹のところを、切先が掠めていった。全身に粟が生じる。無意識のうちに、抜刀していた。
中村は、示現流の打ちこみの構えをとっている。沖田は突きを出す構えだった。気が張りつめ、ぶつかり合った。固着は動かない。相討ち。沖田はそう思った。というより、躰でそう感じた。それしかない。
剣が同化する。躰になる。動いたところに、自分の死もあり、相手の死もある。これほどの手練れと対峙するのは、京へ来てはじめてだった。死ねるかもしれない。沖田の思念の中に、それがよぎった。それから、すべてがとけて無になった。
跳び退った。中村も退がっていた。二人の間に、鞘ごと大刀が落ちていた。もうひとりの武士が、投げ込んだようだ。張りつめていた空気が、攪拌され、散り、曖昧なものになった。
「たまげたぞよ、おまんら。名乗らんで、殺し合いかよ。わしゃ、肝がこまいきに、こがいなこと、よう耐えられんのじゃ。二人とも、死ぬぜよ」
男の声が、さらに空気を掻き回した。
「新撰組、沖田総司さあでごわすな」
中村が言い、兼定を鞘に収めた。
「ほお、新撰組の沖田。京じゃ、名の通った男じゃのう。わしらは、薩摩藩邸に行くところだがや。新撰組、敵でもなきゃ、味方でもないきに。通してくれんかのう」
のこのこと男が出てきて、大刀を拾いあげた。邪気のない男だった。沖田も、刀を鞘に収めた。いまのところ、薩摩も土佐も敵というわけではなかった。

?黒龍の柩(上)第三章「散る花」 北方謙三 著より


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三田の薩摩屋敷は、人の出入りが激しかった。
歳三は、午から夜半まで、ひとりで待った。
時々、加右衛門が姿を見せたが、気にしなかった。
二日目の夜半近くになって、男がひとり帰ってきた。男は、見張っている歳三の気配に、すぐ気づいたようだ。門に背をむけて、真直ぐに歳三に近づいてきた。
闇の中で、眼が光っている。
「おはん、新撰組の」
中村半次郎だった。
「西郷ではないのか。当てがはずれた」
「また、西郷どんを」
「ほう、やっぱり、あの時の男は西郷だったのか。なにしろ、顔も見せようとしない男だからな」
薩摩屋敷の前で中村と斬り合うというのは、いかにもまずかった。屋敷の中にいる者に、出てこいと言っているようなものだ。
「幽霊か、おはんは?」
「幽霊なら斬れんぜ。薩摩随一と言われているあんたの腕、ほんとうに試しちゃいない。よかったら、付き合えよ」
中村は、ただ立ち尽くしていた。
「あんたと立ち合いたいという男が、新撰組にいた。その男の代りに、あんんたとやり合ってみるのも、悪くない気がする」
「おいと斬り合いたい男とは、誰でごわす?」
「名は知っているだろう、沖田総司。その気があるなら、ついてきなよ」
歩きはじめると、中村は黙ってついてきた。歳三は屋敷と屋敷の間の道に入った。夜半になると、人通りは絶える。
「沖田さあは、まだ御存命でごわすか?」
「病で死んだ。あんたと斬り合って、死なせてやりたかったよ」
中村がかすかに頷いた。
歳三は、兼定の鞘を払った。中村の指料も、同じ兼定だという。こういう偶然も、ときにはあるのだ。
中村は居合を遣うつもりはないようだった。惚れ惚れするような抜き方で、歳三が剣をあげると、中村も顔の脇でしっかりと構えた。示現流。受けも二の太刀もない。一の太刀だけで、一撃必殺をただくり返す。肉を斬られても、骨を断つという剣法だった。
歳三は心気を澄ませた。中村も、静止して、無我の中にあるようだ。
闇が、闇ではなくなった。中村の姿だけが見えている。昼間でも、同じなのだ。
次第に、気が満ちてくる。しかし、満ちて弾けるというほどではない。なにかが、頭の中を回っている。沖田の顔。近藤、山南の顔。やがて、それも消えた。
中村は彫像のように動かない。しかし、熱い、熱すぎるものをはっきりと感じる。歳三は、はじめて口から息を吐いた。中村も、一度肩で息をしたようだ。
お互いの放つ、気が動いた。しかし躰は動かなかった。顔の汗が頬を伝い、顎のさきから滴り落ちていく。
潮合は、不意にやってきた。
躰が擦れ違った。それだけだった。入れ替わった位置で、同じかたちの対峙になった。
歳三は、顔の左側に、痺れに似たものを感じていた。顔を掠っていったものは、風などというものではなかった。中村もまた、脇腹に同じような感覚が残っているだろう。
再び、長い固着に入った。
歳三は、すでに口を開いていた。中村の肩もまた、それほど激しくはないが上下している。
なんだろう。ふと歳三は思った。いままでの争闘にはない、清々しさがある。生きることも死ぬことも、もの悲しい、と思えた。まして、人を斬ることなどに、意味はない。それでも、この立合の決着はつけたかった。
中村。心の中で呼びかけていた。礼を言うぜ、一対一の立合に応じてくれて。中村もまた、歳三に語りかけているようだった。それが、決して不快ではなかった。愉しいじゃないか、斬り合いも。そんなことでも言っていそうな気がする。
二度目の潮合も、ほとんど無意識の中で訪れてきた。歳三の斬撃は渾身だった。中村もまた。同時に相手の袖と襟を斬っていた。
そして、また同じかたちで固着だった。
二人とも、もう息の乱れを隠そうとしていなかった。
怒鳴り声が聞こえた。
歳三と中村は、同時に飛び退った。
「市中警固の者だ。夜中に白刃とは、見逃せぬぞ」
邪魔が入った。中村も剣を下げ、かすかに首を振った。見廻りに来たのは、二人のようだ。怒鳴ってはみたが、腰が引けていて、近づいてはこなかった。
「気持ちのいい立合だったよ、中村さん」
かすかに、中村が頷いた。
「いずれまた、戦場で会おう」
「よかど。決着はつけたか。箱館で死なんでくんやんせ、土方さあ」
歳三はかすかに頷いた。同時に、反対の方角へ駈けた。誰も追っては来なかった。
途中で寄り添うように駈けてきたのは、加右衛門だった。
「ずっと見ていたのか、加右衛門?」
「はい、最後まで見届けたい、という思いがございました。かつて見たことがないほど、身を切るような対峙でございましたな」
「そうか」
「不思議です」
「そうでもないさ。中村も暗殺の剣を振うのに倦んでいたのだろう。俺も、なにかに倦んでいた。政争とか、戦の勝敗とか、そんなものと離れて、剣と剣でむかい合えた。そんな立合だったと思う」
「嬉しがっておられるようです、土方様」
「嬉しいのさ。俺にもまだ、あんな立合をするなにかが、残っていたのだ」
「中村半次郎も同じだったのですね」
「死ぬな、と言われたよ。決着をつけたいから、箱館の戦で死ぬなと」
「西郷をお斬りになりたかったでしょう、土方様は?」
「めぐり合えれば。中村半次郎と出会したことは、かえってよかったような気がする。夢のかけらをふっ切れたよ」
「いま、西郷を斬って、どういう意味があるのだろう、と私は思っていました」
「意味はない。ただ、人は意味だけで動くわけでもない」
「そうでございますね」
加右衛門の隣りに、歳三も横たわった。

?黒龍の柩(下)第十三章「夢のかけら」 北方謙三 著より


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